この記事の要点
- 消えた村や字を読むには、明治期の戸別明細図・江戸の旧高帳・現在の公図という時代の異なる「三枚の地図」を重ねるのが基本である。
- 三枚はそれぞれ作成時期・記載内容・入手先が異なる。何が書かれ、何が書かれていないかを知ったうえで読み合わせる。
- 字(あざ)は地番の基礎であり、村が消えても字名は地番のなかに残ることが多い。これが読み合わせの鍵になる。
- 旧土地台帳・旧公図は法務局、旧版地形図は国土地理院、地域の古地図は図書館・郷土資料室・公文書館が主な入手先。
- 古地図には所蔵者の権利・利用条件があるため、本記事では画像を掲載せず、読み方の手順を中心に解説する。
三枚の地図を重ねる、とは
一枚の地図は、ある時点の土地の姿を写したものにすぎない。消えた村や字(あざ)の名を探すには、時代の異なる複数の地図を重ね合わせて、同じ場所が時代ごとにどう呼ばれ、どう区切られていたかを読み取る必要がある。本連載ではこれを「読み合わせ」と呼ぶ。
旧磐田市域でいえば、明治22年(1889)の町村制で多くの村が町村に統合され、昭和の合併(1940年の磐田町、1948年の磐田市)でさらにまとまっていった。その過程で「村」という単位は行政上消えていく。しかし事実として、村の下にあった「字(あざ)」の名は、地番という形でいまも土地に貼りついている。これを手がかりに、消えた村の輪郭を地図上にたどり直すことができる。
読み合わせに使う三枚は、性格が異なる。ひとつは江戸の村を石高で記録した文字史料(旧高帳の系統)、ひとつは明治期に村のなかの土地と家を細かく描いた図(戸別明細図など)、ひとつは現在の土地の区画を示す図(公図)である。三枚はいずれも「土地」を扱うが、写し取っている対象も縮尺も目的も違う。だからこそ重ねる意味がある。
なぜ三枚も必要なのか。ひとつには、地名の単位が時代とともに入れ替わるからである。江戸の「村」、明治以降の「大字」、土地に振られた「字」と「地番」は、互いに重なりつつも、そっくり同じではない。村が町に統合されても字名が地番に残ったり、逆に区画整理で字界が引き直されたりする。ひとつの呼び名だけを追っても、どこかで線が途切れる。もうひとつには、史料ごとに精度と目的が違い、片方の不確かさをもう片方が補うからである。文字の旧高帳には空間がなく、戸別明細図には測量の正確さが必ずしもなく、公図には江戸の素性が書かれていない。欠けを互いに埋め合わせるために、三枚を重ねる。
村(大字)のなかをさらに細かく区切った小地名。「大字(おおあざ)○○・字(あざ)△△」のように使う。田畑の一枚一枚や谷・坂・池など地形に由来する名が多く、土地台帳・公図の地番は、この字を単位に振られている。村が消えても字名は地番のなかに残ることが多い。
一枚目 ── 旧高帳(江戸の村を石高で読む)
三枚のうち最も古い層が、江戸時代の村を記録した帳面である。村は石高(村高)とともに、郷帳や旧高旧領取調帳といった公式の村名簿に整然と書き留められた。これらは地図ではなく文字史料だが、村の名・大きさ・支配者を知る出発点になるため、本記事では「一枚目の地図」として位置づける。
明治初年、明治政府が江戸末期の村名・旧高(石高)・旧領(どの領主・支配の下にあったか)をまとめた目録。郷土資料では「旧高帳」とも呼ばれる。元禄郷帳・天保郷帳とあわせて、近世の村を確かめる基本史料となる。
右の旧高旧領取調帳をはじめ、江戸期の村高を記した帳面類の通称として地域史で広く使われる語。村の名と石高、支配の別がわかるため、戸別明細図や公図に出てくる村名・字名の素性を確かめる際の照合先になる。
旧高帳の系統が答えてくれるのは「この場所に、江戸時代どんな名の村があり、どれくらいの大きさで、誰の支配だったか」である。事実として、旧磐田市域の村々は元禄郷帳(元禄10年=1697命〜元禄15年頃)、天保郷帳(天保2〜5年=1831〜34)、旧高旧領取調帳(明治初期)に記録が残る。三つを並べると、同じ村の石高が時代でどう動いたかも追える。ただし旧高帳は文字の一覧であり、村の「かたち」や境界は描かれない。そこを補うのが、二枚目の図である。
二枚目 ── 戸別明細図(明治の村を一軒ずつ描く)
明治期以降、村のなかの土地や家を一筆・一戸ずつ細かく描いた図が各地で作られた。これらを総称して「戸別明細図」「地籍図」などと呼ぶ。旧磐田市域でも、明治42年(1909)前後を含む時期に、村ごとの戸別明細図が作られたとされる。
村や町のなかの土地・建物を、地番や所有者・屋号などとともに一筆・一戸ごとに描き込んだ図。明治後期から大正・昭和にかけて各地で作られ、村の区画・道・水路・主な家の位置がわかる。地租改正に伴う地籍図や、民間で作られた住宅地図の先駆けにあたるものなど、由来はさまざまである。
戸別明細図の価値は、文字史料の旧高帳ではわからない「村の空間」が見える点にある。どの字にどんな道が通り、田畑と宅地がどう分かれ、どの家がどこにあったか――村の内部構造が一目でつかめる。解釈になるが、旧高帳で名と大きさを押さえた村を、戸別明細図のうえに置き直すと、その村が地図のどこからどこまでだったか、輪郭がにわかに具体化する。これが読み合わせの中心的な作業になる。
ただし注意もいる。戸別明細図は作成主体も精度もまちまちで、必ずしも測量に基づく正確な地図とは限らない。屋号や通称が現在の地名と一致しないこともある。これは推測の域を出ないが、同じ村でも作られた年や作り手によって描き方が違い、別の図と突き合わせて初めて読めることも多いと考えられる。一枚を鵜呑みにせず、旧高帳・公図と三方から照らすのが安全である。
三枚目 ── 公図(現在の区画と地番)
三枚目は現在の土地の区画を示す図、すなわち公図である。法務局に備えられ、土地の地番と区画(筆界の概形)を表す。現在の不動産取引や土地調査で最もよく使われる地図であり、過去の二枚と「いま」をつなぐ役割を担う。
法務局(登記所)に備え付けられた、土地の地番と区画を示す図の通称。多くは旧土地台帳に付属した地図(旧公図・字図)を引き継いだもので、正確な縮尺の測量図ではない場合がある。一筆ごとの地番が振られ、現在の土地を特定する基礎になる。なお筆界(境界)の正確な位置は別途、地積測量図等で確認する。
明治以降、土地ごとに地番・地目・地積・所有者などを記録した帳簿。現在の登記簿に引き継がれる前の土地の履歴がたどれる。多くは法務局で閲覧でき、これに付属した字図(旧公図)と合わせて、土地の古い区画と所有の移り変わりを読むことができる。
公図と旧土地台帳をたどると、現在の地番が、もとはどの字に属し、どんな地番だったかが見えてくる。事実として、多くの土地は「大字○○ 字△△ ○○番地」の形で、村と字の名を地番のなかに保存している。村は行政上消えても、字は地番の住所として生き続けているのである。三枚目の公図から字をたどり、二枚目の戸別明細図で字の位置を確かめ、一枚目の旧高帳で村の素性を確かめる――この往復が「読み合わせ」の実際である。
三枚を並べて比べる
三枚の地図は、答えてくれる問いが違う。何を聞けるか、どこで手に入るかを表に整理する。
| 種類 | 作成時期 | 主な記載内容 | 主な入手先 |
|---|---|---|---|
| 旧高帳 (旧高旧領取調帳ほか) | 江戸期〜明治初期 | 村名・村高(石高)・旧領(支配者)。文字の一覧で、空間情報は持たない。 | 図書館・公文書館、各種データベース、活字翻刻 |
| 戸別明細図 (地籍図・古地図) | 明治後期〜昭和(例:明治42年前後) | 村内の地番・土地・建物・所有者や屋号・道・水路。村の内部構造がわかる。 | 図書館・郷土資料室・公文書館・各家の所蔵 |
| 公図 (旧公図・字図を含む) | 明治〜現在 | 現在の地番と区画。大字・字を地番として保存。筆界の概形。 | 法務局(登記所)。旧土地台帳も同所 |
解釈になるが、三枚のどれか一枚だけでは、消えた村の像は結ばない。旧高帳だけでは村が地図上のどこか分からず、戸別明細図だけでは村の素性(石高・支配)が読めず、公図だけでは現在の地番しか分からない。三枚を字でつなぐと、はじめて「いまのこの土地は、かつて○○村の字△△だった」という一本の線が引ける。
字・地番の用語を押さえる
読み合わせの作業で必ず出てくる用語を整理しておく。これらの言葉の関係がつかめると、三枚の地図のあいだを行き来しやすくなる。
| 用語 | 意味 | 三枚との関わり |
|---|---|---|
| 大字(おおあざ) | 旧来の村にあたる地名の単位。住所の「○○町」「○○」の部分。 | 旧高帳の村名がそのまま大字になることが多い。 |
| 字(あざ/小字) | 大字のなかの小地名。地番が振られる単位。 | 戸別明細図・公図で位置を確かめ、村と現在の地番をつなぐ。 |
| 地番 | 土地一筆ごとに振られた番号。住居表示の「番地」とは別。 | 公図・旧土地台帳の基礎。字ごとに連番で振られる。 |
| 地目(ちもく) | 田・畑・宅地・山林など土地の用途区分。 | 旧土地台帳・公図で、その土地が昔どう使われたかを示す。 |
| 筆界(ひっかい) | 一筆の土地と隣の土地との境界。 | 公図は概形を示すのみ。正確な位置は別の図面で確認。 |
| 字図(あざず) | 字ごとに地番と区画を描いた図。旧公図の実体。 | 公図のもとになり、戸別明細図と区画を照合できる。 |
読み合わせの手順(実際の流れ)
ここまでの三枚を、実際にはどう重ねていくか。標準的な流れを示す。なお現地の土地・所有に関わる正確な調査は、最終的に法務局の資料と専門家の確認による。
三枚を重ねる手順
- ① 現在から入る:調べたい場所の現在の住所・地番を確かめ、公図で大字・字と地番を読む。
- ② 字をたどる:旧土地台帳・字図で、その地番がもとどの字に属し、地目がどうだったかを確かめる。
- ③ 空間に置く:戸別明細図(古地図)で、その字が村のどこにあり、道や家とどう並んでいたかを見る。
- ④ 素性を確かめる:旧高帳で、その村の江戸期の名・石高・支配を照合する。
- ⑤ 旧版地形図で重ねる:国土地理院の旧版地形図で、旧道・旧地名の位置を現在の地図と重ね、ずれや一致を確かめる。
事実として、この①〜⑤は別々の所蔵機関にまたがる。公図・旧土地台帳は法務局、旧版地形図は国土地理院、戸別明細図や地域の古地図は図書館・郷土資料室・公文書館や各家の所蔵にある。一か所では完結しないことを、はじめに知っておくとよい。
地図は一枚では過去を語らない。三枚を字でつなぐとき、消えた村の名が、いまの土地のうえに静かに戻ってくる。
古地図を読むときの注意 ── 権利と限界
古地図・戸別明細図は、所蔵する図書館・資料館・個人が権利や利用条件を定めている場合がある。事実として、複製・公開・転載には所蔵者の許諾や利用手続きが必要なことが多い。本記事が古地図の画像そのものを掲載せず、読み方の手順を中心に解説しているのは、この所蔵・権利への配慮による。実物を見るときは、各機関の利用規程に従い、撮影や複写の可否を確かめてほしい。
あわせて、地図の限界も心得ておきたい。戸別明細図や旧公図は必ずしも正確な測量図ではなく、縮尺や区画にずれがある。これは推測の域を出ないが、同じ字でも図によって描かれ方が違い、現地の地形や別の史料と照らして初めて確からしさが定まることが多いと考えられる。地図は「そう描かれた」記録であって、「そうだった」事実そのものではない。三枚を重ねるのは、この不確かさを互いに補わせるためでもある。
土地の古い区画や字名、境界、所有の移り変わりを調べる作業は、相続や空き家の調査――親から受け継いだ土地や長く空いた家の現況を確かめる場面――でも、古地図・旧土地台帳・現在の公図や現況図を重ねる形で行われる。
「事実・解釈・推測」を分けて読む
古地図の読み合わせでも、確かなことと、そうでないことを区別しておくと誤読を避けやすい。本記事の立場を整理する。
三つの区別(本記事の場合)
- 事実:三種の史料(旧高帳・戸別明細図・公図)の存在と性格、それぞれの主な入手先、字名が地番に残ること。資料で確認できる。
- 解釈:三枚を重ねると消えた村の輪郭が結ぶ、という読み方の有効性。事実にもとづく方法上の見立て。
- 推測:個々の戸別明細図の精度、字界が近世村の境界にどこまで連続するか。図ごとに異なり、今後の照合を要する。
よくある疑問(FAQ)
村や町のなかの土地・建物を一筆・一戸ずつ描いた図です。地番や所有者・屋号、道・水路まで描かれることが多く、明治後期から昭和にかけて各地で作られました。文字史料の旧高帳ではわからない「村の空間」が読み取れるのが特徴です。ただし測量の精度はまちまちで、必ずしも正確な地図とは限りません。
ほぼ同じものを別の言い方で指す場合が多いです。「字図」は字ごとに地番と区画を描いた図で、これが法務局に引き継がれ「公図(旧公図)」として使われています。いずれも正確な縮尺の測量図とは限らず、区画の概形を示すものと考えてください。正確な境界(筆界)は地積測量図などで別に確認します。
多くは法務局(登記所)で閲覧できます。旧土地台帳には、土地ごとの地番・地目・地積・所有者の移り変わりが記録され、これに付属する字図(旧公図)と合わせて土地の古い区画と履歴をたどれます。閲覧の方法や範囲は管轄の法務局にご確認ください。
図書館・郷土資料室・公文書館が主な所蔵先です。旧磐田市域なら磐田市立図書館などで地域資料を探せます。旧版地形図は国土地理院でも見られます。古地図には所蔵者の権利・利用条件があるため、撮影や複写の可否、転載の手続きは各機関の規程に従ってください。本記事が画像を載せていないのも、この権利配慮によるものです。
字が地番の単位だからです。土地の地番は字ごとに振られ、「大字○○ 字△△ ○○番地」の形で住所や登記に保存されます。行政上の村は合併で消えても、土地に貼りついた字名は地番として残り続けるため、これを手がかりに消えた村をたどれます。
もっと知るための手がかり
- 三枚をそろえる
- 公図・旧土地台帳=法務局/旧版地形図・空中写真=国土地理院/戸別明細図・古地図=図書館・郷土資料室・公文書館。
- 権利に配慮
- 古地図は所蔵者の利用条件に従う。撮影・複写・転載の可否を必ず確認する。
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